アタマとココロの正体/養老孟司 日経サイエンス編
医学と工学の最先端科学者たちがアタマとココロについて語る。
脳やこころといった未知の世界へ「エッ」と思うような、様々な分野からのアプローチが紹介されている。その分野の第一人者が研究への情熱を語る。まるで映画「マトリックス」のように、惹きこまれてしまう本。
彼らの気持ちは次の一行に集約される。
「小学生にもわかるぐらいの理屈なんだけれど、それが実感としてわかるというのはまた別問題。もし実感としてわかってしまったら、それから逃げられなくて。研究する上でも大前提となるんだ。」
連想した言葉を「マトリックス」から・・・・
「マトリックスの正体は誰に教わるものではない、自分の目で見るしかない」
世界を救うため、ネオが立ち上がったように、彼らもまた身体の奥から湧き出る衝動に突き動かされているのだろう。裏表紙から。「学問というのは極端に走らないと面白くない!」納得のキャッチコピーに拍手!
竹下評(2011.10.7掲載、2023再掲)
「こころがやどる場所」茂木健一郎
東大理学部物理卒、ソニーコンピュータサイエンス研究所専門は脳科学
脳のシステム論から見た意識が生み出される仕組みについて研究。「脳しかないのだ」「すべてはニューロンだ」と私がに至った経緯ケンブリッジの牧場で、草や牛を見ていたり、風を感じていたときに、ふと、これは外にあると思っていたけれど、実は全部脳の中で起こっているんだということに気づいた。
小学生にもわかるぐらいの理屈なんだけれど、それが実感としてわかるというのはまた別問題。もし実感としてわかってしまったら、それから逃げられなくて。研究する上でも大前提となるんだ。
「脳の構造と機能をめぐって」田中繁
理化学研究所脳科学総合研究センター視覚神経回路モデル研究チームリーダー
構造生みだす競争原理・・・・競争がなかったら秩序という概念はでてこない。秩序とは、なんらかの構造を持つ、一様ではないということ。それを突き詰めていったのが、自然選択説(=ダーウィンが樹立した自然淘汰説。生物種は多産性を原則としており、生存競争においてはより、適応した変異を持つ個体が生き残って子孫を残す可能性が高い、つまりより適した変異が伝わる確率が高い。こうして種は環境に適した方向へと変化する)。
本当の競争社会はそのシステムからはずれることができるというのが大前提。全然違うシステムでまた別な競争をやれる。とこらが日本ではそれを禁止する。要するに世間の構造でしばって、他人がやるようにしかできない。そうすると受験競争みたいな特定の競争になってくる。
「脳型コンピュータを目指す」/市川道教
理化学研究所脳科学総合研究センター脳創成デバイス研究チームリーダー
人口知能の研究にしても、意識的な処理、つまり脳で言えば大脳新皮質の機能ばかり追いかけてきた。けれど生物には「生存しなければならない」いう命題が与えられている。脳型コンピュータを作ろうとするとき、そういうところまで取り込まなくてはならない。生物を最終的に突き動かしているのは「欲」。欲は脳に「作り付け」。ドーキンスの「利己的遺伝子」によると、遺伝子が自らを残すために脳に「生きたい」という欲を持たせている。
予測された技術は必ず実現します。脳には、考えたものは必ず作り出すという法則があります。だから考えたほうが勝ちなんです。我々が見ている世界だって脳が作り出しています。我々は周りの世界が止まっていると思っていますね。頭を動かしても、部屋がぐらぐらゆれることはない。あれは、脳がそういうふうにしているんです。