2020年4月4日土曜日

「学力の経済学」

慶應大準教授教育経済学者 中室牧子さんは「学力の経済学」で「どういう教育が成功する子どもを育てるのか」科学的な根拠に基づく教育を提案している。

「親の年収や学歴が低くても学力が高い児童の特徴は、家庭で読書していること」文科省の分析に対して、
「読書しているからと子どもに学力が高い(因果関係)のでなく、学力の高い子供が読書しているに過ぎない(相関関係)可能性がある。」p22

鋭い。

(因果関係) と (相関関係)は区別しなければなりません。 ※ 本を読むことが学力にプラスの因果効果があるかについての答えはイエス。

「目の前ににんじん」作戦

「テストでよい点をとればご褒美をあげます」
「本を一冊読んだらご褒美をあげます」

子どもの学力を上げる効果を持つのはどちらでしょうか。
数あるインプットの中でも本を読むことに褒美を与えられた子どもたちの学力は顕著でした。アウトプットにご褒美を与えられた子どもたちの学力はまったく改善しませんでした。
インプットは子どもたちにとって、何をすべきか明確です。一方アウトプットにご褒美が与えられた場合何をすべきか具体的な方法は示されていません。

どうすれば学力を上げられるのかが、彼ら自身にはわからないのです。p36
「しっかり問題文を読む」「解答を見直す」に終始し、「わからないところは先生に質問する」「授業をしっかり聞く」などのような本質的な学力の改善に結びつく方法には至っていない。

アウトプットにご褒美を与えて学力が改善するのは、子どもの学習の面倒をみる指導者がいる場合。どうすれば成績があげられるのかという方法を教え、導いてくれる人が必要である。

宿題とともに「やればできる」というような自尊心を高めるメッセージを送ったグループは、個人の管理能力や責任感の重要性を説くメッセージを送ったグループよりも成績が統計的に有意に低かった。

※成績の自己評価は管理能力のひとつと言ってもいいかもしれない

子どもをほめるときは「あなたはやればできるのよ」ではなく「今日は1時間も勉強できたんだね」「今月は遅刻や欠席が1度もなかったね」と具体的に子どもが達成した内容を挙げることが重要です。
そうすることによって、さらなる努力を引き出し、難しいことでも挑戦しようとする子どもに育つとこの研究から得られた。

お手軽なものに効果はない

「勉強するように」言うのは親として簡単なのですが、この声かけは効果は低く、ときには逆効果になります。エネルギーの無駄遣いなので、やめた方がよいでしょう。

逆に「勉強を見ている」または「勉強する時間を決めて守らせている」という、親が自分の時間をなんらかの形で犠牲にせざるを得ないような手間暇のかかるかかわりというのはかなり効果が高いことも明らかになりました。(p60)

「友達」が与える影響

スタンフォード大 ホックスビィ教授の研究
学力が高い友だちの中にいると、自分の学力にもプラスの影響。ただしもともと学力が低かった子どもにはマイナスの影響もある。
レベルの高すぎるグループに子どもを無理にいれることは逆効果になる可能性もある。

ノースウェスタン大 ダンカン教授ランダムに決まった寮のルームメイトの影響の調査では、ルームメイトから成績に対して受ける因果効果はほとんどない一方で、行動に対して受ける因果効果は大変大きなものだった。その最たるものが飲酒。p68

教育にはいつ投資すべきか

子どもへの教育を「投資」と表現することに抵抗のある人もいるかもしれませんが、あくまで教育を経済的な側面からみれば、そう解釈できるということに過ぎません。

子どもの将来の収入は、自立した生活を送るためにたいへん重要ですから、「どういう教育が我が子にとっていい教育なのか」を考えるときに、収益率を考える現実感覚をもっておくことは決して損にはならないはずです。
もっとも収益率が高いのは、子どもが小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)です。

40年の追跡調査で、幼児教育がその後の人生において、学歴、雇用や経済的な環境の安定、反社会的な行為に及ぶ確率が低かった。

幼児教育によって改善されたのは、IQや学力テストで計測される認知能力とは違い、「忍耐力がある」「社会性がある」「意欲的である」といった人間の気質や性格的な特徴。一般に「生きる力」といわれるようなもの。
誠実さ、忍耐強さ、社交性、好奇心の強さなど気質や性格的な特徴である非認知能力は「人から学び、獲得するものである」。

中退することなくきちんと大学を卒業できていたのは、SATの成績が良かった学生ではなく、出身高校のレベルに関わらず通知表の成績がよかった学生でした。

高校でよい成績をとる過程で獲得した非認知能力は、高校を卒業した後も彼らを成功に導いてくれたのです。 p88

重要な非認知能力:「自制心」「やり抜く力」GRIT

非常に遠い先にあるゴールに向けて、興味を失わず、努力し続けれることができる気質
「自制心」は筋肉のように鍛えるとよいと言われている。筋肉を鍛えるときに重要なのは継続と反復です。腹筋や腕立て伏せのように、自制心も何かをくりかえし継続的に行うことで向上します。
「やり抜く力」は心の持ちようが大切であると主張する。努力によって後天的に伸ばすことができると信じる子はやり抜く力が強い。
神戸大学西村教授
しつけを受けた人は年収が高い。(ウソをついてはいけない、他人に親切にする、ルールを守る、勉強をする)をしつけの一環として親から教わった人はまったく教わらなかった人と比較して年収が86万円高い。

子を持つ親が非認知能力がこどもの成功に与える効果を過小評価していないか
非認知能力を鍛える手段として、部活動や課外活動に注目。

情報は「金」

高校を卒業してすぐに働き始めた人と大学を卒業してから働き始めた人の間では、生涯に稼げるお金に1億円の差。

学歴と年収のデータを用いて算出された教育の収益率を知らされた子どもたちは知らなかった子どもたちより学力が高くなった。

この実験は、親や子供たちが教育の価値を過小評価している場合、正しい教育の収益率を知る、つまり「教育を受けることの経済的な価値」に対する誤った思い込みをただすだけで、子どもたちの学力を高めることができる。
小人数学級は根拠のない期待や思い込み。

「いい先生」に出会うと人生が変わる

遺伝や家庭の資源など、子ども自身にはどうしようもない問題を解決できるポテンシャルをもつのは教員だ。

他の子供や集団と比較するのではなく、過去のその子自身と比較して、昨日より今日、今日より明日と伸ばしてやれる先生こそが「いい先生」。